宅建業の免許が下りて、営業も軌道に乗りはじめた。そんなころに、ふと会社の住所を移したり、役員を一人増やしたり、事務所の専任の宅建士が入れ替わったりします。
「登記は司法書士さんに頼んだから、もう大丈夫だよね?」
実はここに、開業した人がいちばん気づきにくい落とし穴があります。法務局の登記と、宅建業の免許を出した役所への届出は、まったく別の手続きだということです。
宅建業法は、免許の申請書に書いた事項が変わったら「30日以内」に届け出るよう義務づけています。しかも、届け出なければ罰金の対象です。
この記事では、宅建業で開業したあとに必要になる「変更の届出」について、処分されないための3つのルールを、宅建士の私が条文の原文をもとに解説します。
なぜ「変更の届出」を忘れてしまうのか
免許を取った瞬間に、手続きが終わった気になる
私自身、宅建試験には5回目でようやく合格しました。長いあいだ「受かること」だけを目標にしていたので、合格した瞬間にゴールテープを切った気持ちになったのをよく覚えています。
開業も同じです。事務所を用意し、保証協会に入り、免許申請書を出して、やっと免許証が届く。ここまでが大変すぎて、「免許を取ったあとにも手続きがある」ことが頭から抜けやすいのです。
登記と届出が「二重」になっている
法人で開業した場合、役員が変わったり本店を移したりすれば、まず法務局で変更登記をします。ところが宅建業の免許は、国土交通大臣または都道府県知事が出したもの。登記をしても、免許権者には何も伝わりません。
鳶の仕事をしていた私の感覚でいうと、元請けに出した作業員名簿を、現場の入れ替えのたびに出し直すのと似ています。出し直さなければ、書類の上では「いない人」が現場にいることになる。宅建業者名簿も同じで、届け出なければ、役所の名簿は古いままです。

ルール①|届け出が必要な「5つの事項」を知っておく
条文が指しているのは、免許申請書の1号から5号
まずは条文を見てください。
第九条 宅地建物取引業者は、第四条第一項第一号から第五号までに掲げる事項について変更があつた場合においては、国土交通省令の定めるところにより、三十日以内に、当該変更に係る事項を記載した届出書をその免許を受けた国土交通大臣又は都道府県知事に提出しなければならない。
(宅地建物取引業法)
「第四条第一項第一号から第五号」とは、免許を申請したときに申請書に書いた事項のことです。並べるとこうなります。
- 1号|商号または名称
- 2号|法人の場合、役員の氏名と「政令で定める使用人」(支店長など事務所の代表者)の氏名
- 3号|個人の場合、本人の氏名と「政令で定める使用人」の氏名
- 4号|事務所の名称と所在地
- 5号|事務所ごとに置く専任の宅建士の氏名
反対に、申請書の6号「他に事業を行っているときは、その事業の種類」は、9条の対象に入っていません。届け出るのは「名前・人・場所・専任の宅建士」の4つのグループと覚えると整理しやすいです。
見落としやすいのは「専任の宅建士」と「役員」
開業して実際に起きやすいのは、商号や住所よりも人の入れ替わりです。専任の宅建士が退職して別の人に替わった。知人を役員に迎えた。こうしたときも、30日以内の届出が必要です。
専任の宅建士については、もう一つ期限があります。31条の3第3項は、専任の宅建士が足りなくなったら2週間以内に補充などの措置をとるよう求めています。2週間以内に人をそろえ、30日以内に届け出る。二つの期限はセットで意識してください。
免許証の書き換えも忘れずに
もう一つ、施行規則4条の2にはこう書かれています。免許証の記載事項に変更が生じたときは、変更の届出と併せて免許証の書換え交付を申請しなければならない。商号を変えたなら、免許証もそのままにはできないということです。

ルール②|期限は30日。守らなければ罰金の対象になる
届出をしない・嘘を書くと「50万円以下の罰金」
では、届け出なかったらどうなるのか。罰則の条文を見てみます。
第八十三条 次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の罰金に処する。
一 第九条、(略)の規定による届出をせず、又は虚偽の届出をした者(宅地建物取引業法)
「うっかり忘れた」も「事実と違う内容を書いた」も、どちらも罰金の対象です。さらに、宅建業法の規定に違反した業者には、65条1項にもとづいて免許権者が必要な指示をすることができます。
開業1年目で罰金や処分を受ければ、取引先や金融機関からの信用にも響きかねません。
宅建士個人の「変更の登録」は別の手続き
ここで、一人で開業した方がとくに間違えやすいポイントがあります。会社としての届出と、宅建士個人としての手続きは別物だということです。
第二十条 第十八条第一項の登録を受けている者は、登録を受けている事項に変更があつたときは、遅滞なく、変更の登録を申請しなければならない。
(宅地建物取引業法)
宅建士の登録事項には、氏名や住所、本籍のほかに、勤めている宅建業者の商号と免許証番号が含まれます(施行規則14条の2の2)。つまり、前の会社を辞めて自分の会社で開業したなら、宅建士個人としても「勤務先が変わった」という変更の登録が必要になるのです。
さらに氏名や住所が変わったときは、変更の登録とあわせて宅建士証の書換え交付も申請します(施行規則14条の13)。会社は「30日以内」、宅建士個人は「遅滞なく」。期限の書き方も違うので、別々に管理するのが安全です。
開業の手続きそのものに不安がある方は、まず税務署への開業届から片づけておくと気持ちがぐっと楽になります。
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ルール③|県をまたいで事務所を移すなら「届出」では済まない
同じ県の中の引っ越しは「変更の届出」
知事免許の業者が、同じ県の中で事務所を移した。これは事務所の所在地(4号)の変更ですから、ルール①のとおり30日以内に変更の届出をすれば足ります。
別の県へ移る・支店を他県に出すなら「免許換え」
ところが、県をまたぐと話がまったく変わります。
第七条 宅地建物取引業者が第三条第一項の免許を受けた後次の各号の一に該当して引き続き宅地建物取引業を営もうとする場合において同項の規定により国土交通大臣又は都道府県知事の免許を受けたときは、その者に係る従前の国土交通大臣又は都道府県知事の免許は、その効力を失う。
二 都道府県知事の免許を受けた者が当該都道府県の区域内における事務所を廃止して、他の一の都道府県の区域内に事務所を設置することとなつたとき。
三 都道府県知事の免許を受けた者が二以上の都道府県の区域内に事務所を有することとなつたとき。(宅地建物取引業法)
これが「免許換え」です。新しい免許権者から免許を受け直す必要があり、変更の届出を出すだけでは済みません。たとえば熊本県知事免許の業者が福岡県に本店を移すなら福岡県知事の免許を、熊本に本店を残したまま福岡に支店を出すなら国土交通大臣の免許を受けることになります。
「事務所を移すのは書類一枚の話」と思い込んで先に動いてしまうと、取り返しがつきません。移転や支店の計画が出た時点で、まず免許権者の窓口に相談する。これがいちばんの近道です。
今日からできること|「届出カレンダー」を作っておく
最後に、今日からできる具体的な行動を3つ挙げます。
- 免許申請書の控えを出して、1号から5号に印をつける|自分の会社で何が届出の対象なのかが一目でわかります
- 「登記したら届出」をセットでメモする|役員変更や本店移転の登記を頼むときに、司法書士さんとの打ち合わせメモへ「宅建の変更届30日」と書いておく
- 宅建士の登録事項もチェックする|勤務先・住所・氏名が今の状態と合っているか、登録先の都道府県の案内で確認する
どれも10分あればできることです。届出は「忘れない仕組み」さえあれば、怖いものではありません。
免許の区分については宅建で開業、免許は“知事”と“大臣”どっち?|間違えない3つのポイント、5年ごとの更新については宅建業の免許は5年で切れる|更新を忘れて失効しない3つのポイントにまとめています。
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まとめ|免許は「取って終わり」ではなく「保ち続けるもの」
宅建業で開業したあとに必要な変更の届出について、3つのルールをおさらいします。
- ルール①|届け出るのは商号・役員などの氏名・事務所の名称と所在地・専任の宅建士の氏名。免許証の記載が変われば書換え交付も(9条・規則4条の2)
- ルール②|期限は30日以内。届出をしない・虚偽の届出は50万円以下の罰金。宅建士個人の変更の登録は「遅滞なく」で別手続き(83条1項1号・20条)
- ルール③|県をまたぐ事務所の移転や他県への支店設置は免許換え。届出では済まない(7条)
免許は、取った日がゴールではありません。役所の名簿と、自分の会社の今の姿を、いつも一致させておく。それが免許を保ち続けるということです。
5回目でやっと合格した私だからこそ、せっかく手にした資格と免許を、手続きのうっかりで傷つけてほしくないと思っています。地味な書類仕事ほど、あとで自分を守ってくれます。
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