不動産会社に転職したら渡される「従業者証明書」|入社後に確認する3つのこと|宅建士が解説

不動産経営
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不動産会社への転職が決まって、初日を迎える。デスクを案内され、名刺の発注書を書き、就業規則の説明を受ける。ひととおり終わって席に戻ったとき、机の上に小さなカードが1枚置かれていた——という会社もあれば、何も渡されないまま3か月が過ぎる会社もあります。

そのカードの名前は「従業者証明書」です。これは会社が任意で作っている社員証ではなく、宅地建物取引業法が会社に義務づけている書類です。そして渡されていない状態で働かせることは、法律上できません。

私自身、宅建士として不動産の実務に関わってきましたが、この証明書と、その裏にある「従業者名簿」の扱い方は、その会社のコンプライアンス意識がいちばん素直に出るところだと感じています。求人票にも面接にも出てこない情報が、入社初日に分かってしまうのです。

この記事では、不動産会社に転職したときに確認したい①証明書を受け取れているか ②従業者名簿に正しく載っているか ③請求されたら提示する義務は自分にあるという3つのポイントに絞って解説します。

「従業者証明書」は会社が渡す義務のある書類

まず条文を見てください。宅地建物取引業法48条1項は、こう書かれています。

宅地建物取引業者は、国土交通省令の定めるところにより、従業者に、その従業者であることを証する証明書を携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならない。(宅地建物取引業法48条1項)

読み方のポイントは、義務を負っているのが「宅地建物取引業者」=会社側だという点です。「携帯させなければ、その者をその業務に従事させてはならない」——つまり証明書を渡していない社員を業務につけること自体が、法律違反になります。

そして条文は「従業者」と書いているだけで、宅建士かどうかを区別していません。試験に合格していない人も、資格を持っていない事務担当も、宅建業の業務に従事するなら対象です。

様式も決まっています。施行規則17条は「法第四十八条第一項に規定する証明書の様式は、別記様式第八号によるものとする」と定めていて、会社が好きなデザインの社員証を配って済ませられるものではありません。名前と証明書番号が入った、決まった形のカードです。

オフィスでスーツ姿のずんだもんと四国めたんが名刺を手に立っている

それでも「渡されていないことに気づけない」3つの理由

これだけはっきり義務になっているのに、受け取れていないまま働いている人は珍しくありません。理由は次の3つに集約されます。

理由① 宅建士証と混同している

宅建の勉強をした人がまず思い浮かべるのは「宅地建物取引士証」です。こちらは法22条の4で、取引士本人に提示義務がある別の書類です。

宅地建物取引士は、取引の関係者から請求があつたときは、宅地建物取引士証を提示しなければならない。(宅地建物取引業法22条の4)

士証を持っているから大丈夫、と思ってしまうのですが、この2つは根拠条文も発行元も違う別物です。士証は都道府県知事が交付するもの、従業者証明書は勤務先の会社が作って渡すもの。士証があっても、従業者証明書の代わりにはなりません。

理由② 「そういう会社もある」で流してしまう

渡されなかった側からすると、「前の職場でももらわなかったし」「小さい会社だからないのかな」と考えてしまいがちです。ですが法律の側から見ると、渡さないという選択肢は存在しません。ないのは会社の運用が抜けているだけで、こちらの認識不足ではありません。

理由③ 従業者名簿は自分からは見えない

証明書と対になっているのが「従業者名簿」です。これは事務所に備え置く帳簿なので、自分の名前が載っているか、記載内容が合っているかを、社員が自発的に確認する機会はほとんどありません。記載漏れや間違いがあっても気づけない構造になっているのです。

逆に言えば、入社のタイミングで一度確認しておくだけで、この3つはまとめて解消します。ここからが本題です。

ずんだもんと四国めたんが二人でガッツポーズをしている

確認① 入社したら「従業者証明書」を受け取る

いちばん単純で、いちばん効くのがこれです。入社初日か、遅くとも最初の1週間のうちに「従業者証明書はいただけますか」と総務に一声かける。それだけです。

聞き方に悩む必要はありません。会社側の義務なので、催促ではなく確認です。「業法48条の証明書、まだ手元にないのですが」と伝えれば、担当者にはすぐ伝わります。

もし「うちはやっていない」という答えが返ってきたら、それはそれで大きな情報です。48条1項に違反した場合、宅地建物取引業法83条1項2号で50万円以下の罰金が定められています。会社が罰則付きの義務を把握していない、あるいは把握していて運用していないということになります。

受け取ったら、記載内容も見ておきましょう。氏名と証明書番号、会社名が入っているか。番号が空欄のまま渡されるケースもあります。番号は次の「名簿」と紐づく大事な情報です。

私自身、当時これを知っていたらもっと早く動けていました。転職先の社内体制まで含めて相談できる相手がいると、入社してからの立ち回りがまるで変わります。宅建を活かした転職を考えている方には、業界専門のエージェントに一度話を聞いてみることをおすすめします。

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四国めたんが説明し、ずんだもんがうなずいて聞いている

確認② 従業者名簿に正しく載っているか

次が名簿です。法48条3項は、事務所ごとに従業者名簿を備えることを会社に義務づけています。

宅地建物取引業者は、国土交通省令で定めるところにより、その事務所ごとに、従業者名簿を備え、従業者の氏名、第一項の証明書の番号その他国土交通省令で定める事項を記載しなければならない。(宅地建物取引業法48条3項)

「その他国土交通省令で定める事項」の中身は、施行規則17条の2第1項に4つ挙げられています。

  • 主たる職務内容(1号)
  • 宅地建物取引士であるか否かの別(2号)
  • 当該事務所の従業者となつた年月日(3号)
  • 当該事務所の従業者でなくなつたときは、その年月日(4号)

ここで転職者にとって意味が大きいのは2号と3号です。「宅地建物取引士であるか否かの別」が記載事項になっている=士でない従業者も名簿に載る前提で作られているということ。そして「従業者となつた年月日」は、あなたの在籍の記録そのものです。

名簿の様式は別記様式第8号の2(規則17条の2第2項)。紙でなくてもよく、パソコンのファイルで管理していて、必要に応じて事務所で紙に表示できるなら、記載に代えられます(同条3項)。「うちはシステムで管理しているので紙の名簿はありません」は、それだけでは問題ではありません。

そして保存期間が長い点も知っておく価値があります。

宅地建物取引業者は、法第四十八条第三項に規定する従業者名簿(中略)を最終の記載をした日から十年間保存しなければならない。(宅地建物取引業法施行規則17条の2第4項)

最終記載から10年。退職してもしばらくは記録が残るということです。だからこそ、入社時点で職務内容や士の別が正しく登録されているかを見ておく意味があります。

なお、名簿を備えていない場合、あるいは記載しなかった・虚偽を記載した場合は、83条1項3号の2で50万円以下の罰金が定められています。証明書と同じ重さで扱われている義務です。

確認③ 「請求されたら提示する」義務は自分にある

ここまでは会社側の義務でしたが、3つめは自分の義務です。法48条2項を見てください。

従業者は、取引の関係者の請求があつたときは、前項の証明書を提示しなければならない。(宅地建物取引業法48条2項)

主語が「従業者」です。お客さんから「あなたは本当にこの会社の人ですか」と聞かれたら、証明書を見せる義務を負っているのは社員本人ということになります。だから1項は「携帯させなければ」=持ち歩かせることまで求めているわけです。

デスクの引き出しに入れたままにしない。これが実務上の答えです。名刺入れに一緒に入れておくのが確実で、私は実際にそうしていました。

一方、名簿のほうは会社が見せます。

宅地建物取引業者は、取引の関係者から請求があつたときは、前項の従業者名簿をその者の閲覧に供しなければならない。(宅地建物取引業法48条4項)

閲覧に応じるのは会社、証明書の提示は本人。この役割分担を覚えておくと、窓口でお客さんから求められたときに迷いません。試験対策としても、48条は「1項=会社/2項=従業者/3項=会社/4項=会社」と主語で整理すると引っかかりにくくなります。

そして最後に、転職先を見る目という意味で。証明書がすぐ出てくる会社、名簿の話をしたら担当者が内容を即答できる会社は、35条の重要事項説明や37条の契約書面といった、もっと重い義務もきちんと回している可能性が高いです。逆に48条が抜けている会社は、入社後に自分が板挟みになる場面が増えます。入口の小さなカード1枚は、想像以上に多くのことを教えてくれます。



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まとめ|入社初日の1枚が、会社を映す

不動産会社に転職したら確認したい3つを、もう一度整理します。

  • 確認① 従業者証明書を受け取る——渡すのは会社の義務(48条1項・様式は規則17条の別記様式第8号)。渡されていない社員を業務につけること自体が違反で、83条1項2号の罰金対象
  • 確認② 従業者名簿の記載を確かめる——事務所ごとに備える義務(48条3項)。職務内容・宅建士かどうか・従業者となった年月日が記載事項(規則17条の2第1項)。最終記載から10年保存(同条4項)
  • 確認③ 請求されたら提示するのは自分——48条2項の主語は「従業者」。名簿の閲覧は会社(4項)。だから証明書は持ち歩く

宅建の勉強をしてきた人にとって、48条は「業務上の規制」の中でも地味な条文です。試験では1問出るかどうか。けれど転職して現場に入ると、この地味な条文が、会社の姿勢を測るいちばん手軽な物差しになります。

初日に受け取れたら、名刺入れに入れておきましょう。受け取れなかったら、聞いてみましょう。それだけのことで、入社後の見通しがずいぶんはっきりします。

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