宅建業の免許を取って開業すると、知り合いの業者さんから「今度の分譲、現地の案内所を手伝ってくれない?」と声をかけられることがあります。週末のモデルルームや、分譲地の入口に立つ小さな案内所。見慣れた光景ですが、実は事務所とは別のルールがある場所です。
私自身、鳶の現場で働きながら宅建試験に4回落ち、5回目でようやく合格しました。試験勉強のときは「案内所=届出が必要」と丸暗記していましたが、いざ自分が開業する立場で考えると、「どんな案内所なら届出がいるのか」「誰を置けばいいのか」を、場面ごとに整理しておかないと迷うと感じました。
今日は、宅建業で開業した人が案内所について迷いやすいポイントを、よくある5つの質問にまとめて、宅建業法の条文といっしょに解説します。
先に結論:ポイントは「申込み・契約をするかどうか」
案内所のルールは、その場所でお客さんから申込みを受けたり、契約を結んだりするかどうかで大きく変わります。
- 申込み・契約をする案内所:成年の専任の宅建士を1人以上置く/業務開始の10日前までに届出/標識を掲げる
- 案内だけで、申込み・契約をしない案内所:専任の宅建士と届出は不要/標識は必要
この線引きを頭に入れておくと、ここから先の5つの質問がすっと理解できます。

Q1.そもそも「案内所」ってどんな場所?
宅建業法では、事務所以外で業務を行う場所として、次のようなものが定められています(宅建業法施行規則15条の5の2・19条)。
- 事務所以外で、継続的に業務を行うことができる施設がある場所
- 10区画以上の一団の宅地、または10戸以上の一団の建物の分譲を行うときの案内所
- 他の宅建業者が行う分譲の代理・媒介を、案内所を設置して行うときの案内所
- 業務に関して行う展示会などの催しの会場
開業したばかりの小さな会社にとって身近なのは、3つ目の「他の業者の分譲を、代理や媒介で手伝う案内所」かもしれません。自分の会社の物件でなくても、自分の会社として案内所を出す以上、ルールは自分にかかってきます。

Q2.届出は必要?いつまでに、どこへ出すの?
申込み・契約をする案内所なら、届出が必要です。宅建業法50条2項は、あらかじめ、所在地・業務内容・業務を行う期間・専任の宅建士の氏名を届け出るよう定めています。
届け出る先は2か所です。
- 免許を受けた国土交通大臣または都道府県知事
- その案内所の所在地を管轄する都道府県知事
期限は、その業務を開始する日の10日前までです(施行規則19条3項)。知事免許の業者が同じ都道府県内に案内所を出す場合は、免許権者と所在地の知事が同じになります。他の都道府県に案内所を出す場合は、2か所への届出になる点に注意しましょう。実際の提出のしかた(窓口・経由先など)は都道府県によって違うので、必ず事前に確認しましょう。
この届出をしなかったり、うその届出をしたりすると、50万円以下の罰金の対象です(宅建業法83条1項1号)。「来週から手伝って」と急に頼まれても、10日前ルールがあるので、引き受ける前にスケジュールを逆算するのが大切です。

Q3.宅建士は何人置けばいいの?
申込み・契約をする案内所には、成年者である専任の宅建士を1人以上置かなければなりません(宅建業法31条の3第1項、施行規則15条の5の3)。
事務所の場合は「業務に従事する人の5人に1人以上」ですが、案内所は人数に関係なく1人以上です。ここは試験でも頻出なので、覚えている方も多いと思います。
一人で開業している場合は特に注意が必要です。自分が案内所に専任で詰めると、事務所の専任の宅建士がいなくなってしまうからです。専任の宅建士が足りない事務所等を開設することはできず、既存の事務所等で足りなくなった場合は2週間以内に必要な措置をとる義務があります(31条の3第3項)。人の手当てができるかどうかも、引き受ける前に確かめておきましょう。
なお、他社の分譲を手伝う案内所では、案内所を設置した業者が専任の宅建士を置く立場になります。売主の業者と手伝う業者のどちらが案内所を設置するのか、最初に取り決めておくと安心です。
Q4.案内だけで申込みを受けない場所なら、何もしなくていい?
パンフレットを配ったり、物件を見てもらったりするだけで、申込みや契約をしない場所なら、専任の宅建士の設置と50条2項の届出は不要です。
ただし、標識だけは、どの場所でも必要です。宅建業法50条1項は、事務所等と、国土交通省令で定める業務を行う場所ごとに、公衆の見やすい場所に標識を掲げるよう定めています。分譲する宅地・建物が所在する現地にも標識が必要です(施行規則19条1項2号)。標識を掲げないと、これも50万円以下の罰金の対象です(83条1項2号)。
標識の様式は、場所の種類や専任の宅建士を置くかどうかで分かれています(施行規則19条2項)。案内所用の様式を使うようにしましょう。
そして、「今日は案内だけ」のつもりでも、お客さんから「ここで申し込みたい」と言われることはあります。最初から申込みを受ける可能性があるなら、届出と専任の宅建士を準備しておくほうが現実的です。
Q5.案内所で申込みを受けたら、クーリング・オフはどうなる?
宅建業者が自ら売主になる売買では、事務所等以外の場所で申込みや契約をした買主は、一定の場合を除いて、書面で申込みの撤回や契約の解除ができます(クーリング・オフ、宅建業法37条の2)。
ここでいう「事務所等」には、専任の宅建士を置くべき案内所が含まれます。ただし、分譲の案内所については「土地に定着する建物内に設けられるもの」に限るとされています(施行規則16条の5第1号ロ)。
- 建物の中にあるモデルルームなどの案内所で申込み → 原則としてクーリング・オフはできない
- テント張りなど、土地に定着していない案内所で申込み → クーリング・オフの対象になる
クーリング・オフができる場合、業者は撤回できることとその方法を、決められた事項を書いた書面で告げる必要があり、告げられた日から8日を過ぎると撤回できなくなります(37条の2第1項1号、施行規則16条の6)。テントの案内所で申込みを受ける場合は、この書面の準備も忘れないようにしましょう。
開業後、案内所を引き受ける前のチェック表
最後に、案内所の話が来たときに確認したいことを、チェック表にまとめます。
- □ その場所で申込み・契約をするか、案内だけか
- □ 申込み・契約をするなら、業務開始の10日前までに届出ができる日程か
- □ 届出先(免許権者と所在地の知事)と、都道府県ごとの提出方法を確認したか
- □ 案内所に成年の専任の宅建士を1人以上置けるか(事務所の専任が欠けないか)
- □ 案内所・現地に掲げる標識を用意したか
- □ 案内所が建物内か、テントか(クーリング・オフの扱いが変わる)
- □ 他社の分譲を手伝う場合、どちらが案内所を設置するかを取り決めたか
開業したばかりのころは、お金の手続きや書類の準備で手いっぱいになりがちです。開業届や青色申告の準備がまだの方は、弥生のかんたん開業届(無料)を使うと、画面に沿って入力するだけで開業届と青色申告承認申請書が作れます。 手続きにかかる時間を減らして、そのぶん業法のルールの確認に時間を使えると安心です。
開業後に必要な届出については宅建業で開業したら“30日以内”の届出に要注意|変更の届出で処分されない3つのルール、事務所にそろえるものは宅建業の開業、免許が下りたら終わりじゃない|営業初日までに事務所へそろえる3つのものにまとめています。
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まとめ|案内所は「引き受ける前」の確認がすべて
宅建業で開業したら知っておきたい、案内所の5つの質問をおさらいします。
- Q1|案内所は、10区画・10戸以上の分譲の案内所、他社の分譲を代理・媒介する案内所、展示会の会場など(施行規則15条の5の2・19条)
- Q2|申込み・契約をする案内所は、業務開始の10日前までに、免許権者と所在地の知事へ届出(宅建業法50条2項、施行規則19条3項)
- Q3|申込み・契約をする案内所には、成年の専任の宅建士を1人以上(31条の3、施行規則15条の5の3)
- Q4|案内だけなら届出と専任の宅建士は不要。ただし標識はどこでも必要(50条1項)
- Q5|テント張りの案内所での申込みはクーリング・オフの対象(37条の2、施行規則16条の5)
案内所の話は、急に舞い込んでくることが多いものです。「申込みを受けるか」「10日前に届出できるか」「宅建士を置けるか」の3点を、引き受ける前に確認する。それだけで、開業したばかりの大切な免許を守ることができます。
4回落ちても諦めずに取った資格だからこそ、開業したあとも一つひとつのルールを大切にしていきたいと私は思っています。
※本記事は令和8年10月時点の法令にもとづく一般的な解説です。届出書の様式・提出先・提出方法などは、免許を受けた都道府県や地方整備局、案内所の所在地の都道府県の案内で必ずご確認ください。
出典:e-Gov法令検索「宅地建物取引業法」第31条の3・第37条の2・第50条・第83条/「宅地建物取引業法施行規則」第15条の5の2・第15条の5の3・第16条の5・第16条の6・第19条

