残暑が続く9月の夜、部屋のエアコンから急に冷風が出なくなった——。そんなとき、頭に浮かぶのは「これ、私が自腹で買い替えるの?」という不安だと思います。
エアコンは1台10万円前後します。賃貸なのに自分で買うのは納得がいきませんが、一方で「勝手に業者を呼んだら費用は出ないと言われた」という話も実際にあります。結論を分けるのは「そのエアコンが契約上の設備かどうか」と「連絡の順番」の2つです。
私は宅建士として賃貸の契約実務に関わってきましたが、この手のトラブルは法律を知らないまま先に動いてしまった人ほど損をします。逆に、順番を守れば修理代はもちろん、直るまでの家賃まで戻ってくることがあります。
この記事では、賃貸のエアコンが壊れたときに損をしないために、①設備か残置物か ②原因と連絡の順番 ③直るまでの家賃という3つのポイントに絞って解説します。
大原則は「直すのは貸主」
まず出発点となる条文を確認します。民法606条1項はこう定めています。
賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。(民法606条1項)
つまり部屋をふつうに使うために必要な修繕は、貸主(大家さん)がやる義務があるということです。エアコンが部屋の設備として付いていたなら、その修理・交換は原則として貸主の負担になります。
ただし、条文の後半に「ただし書き」があります。借主のせいで壊れたときは、貸主に修繕義務はありません。このただし書きは2020年4月施行の改正民法で明文化された部分で、いまの契約すべてに関わります。
そして実務では、この原則がそのまま通らないケースが3つあります。それが以下のポイントです。

ポイント① 「設備」か「残置物」かで結論が変わる
最初に確認してほしいのが、そのエアコンの立場です。同じ場所に付いている同じエアコンでも、契約上の扱いは2通りあります。
- 設備 … 貸主が部屋の設備として備え付けたもの。契約書や付帯設備表に「エアコン 有」と書かれている。貸主に修繕義務がある
- 残置物 … 前の入居者が置いていったものを、撤去せずにそのまま残してあるもの。貸主の設備ではないので、修繕義務の対象外とされることが多い
残置物は「使ってもいいけれど、壊れても直さないし撤去もしない」という約束で置かれているものです。入居時にタダで使えてラッキーだったものが、壊れたときに自己負担に変わる——これが残置物の落とし穴です。
では、どう見分けるか。答えは書類です。
- 賃貸借契約書の設備に関する条項
- 付帯設備表(設備一覧)の「エアコン」の欄
- 重要事項説明書の記載
公益財団法人不動産流通推進センターが公表している相談事例でも、重要事項説明で「エアコンの修理は借主負担」と説明を受け、借主が署名押印していたケースについて、その内容が特約として契約の一部になっていると判断されています。つまり、書面に借主負担と書かれていて、それに納得して署名していれば、その約束は効いてしまうということです。
裏を返せば、契約書にも設備表にも「借主負担」と書かれていないなら、606条の原則どおり貸主に直してもらえる立場にあるということです。壊れて焦っているときほど、まず契約書ファイルを開いてください。
これから部屋を探す方は、内見のときに「このエアコンは設備ですか、残置物ですか」と一言聞くだけで、この記事のトラブルは丸ごと避けられます。設備の新しさや保証の有無は、家賃と同じくらい生活に効いてくる条件です。

ポイント② 原因と「連絡の順番」で自己負担が決まる
設備のエアコンだと分かったら、次に大事なのが動く順番です。ここを間違えると、貸主負担のはずの修理代を自分でかぶることになります。
まず「通知」。これは義務です
民法615条は、賃借物が修繕を要するときは、借主は遅滞なくその旨を貸主に通知しなければならないと定めています。これは権利ではなく義務です。
連絡先は、管理会社があれば管理会社、個人の大家さんなら大家さん本人。電話だけで済ませず、メールやメッセージアプリなど日付が残る形でも送っておくことを強くおすすめします。後で「言った・聞いていない」になったとき、この記録が③の家賃減額の根拠になります。
勝手に修理を頼んでいいのは2つの場合だけ
「暑いから待てない」と自分で業者を呼びたくなりますが、借主が自分で修繕できるのは、民法607条の2が定める次の2つの場合だけです。
- ① 借主が貸主に修繕が必要だと通知した(または貸主がそれを知っていた)のに、貸主が相当の期間内に修繕をしないとき
- ② 急迫の事情があるとき
この条文も2020年4月施行の改正民法で新しく入ったものです。通知もせずに先に業者を手配すると、①にも②にも当たらず、費用を請求する足場を失います。
逆に、①②に当てはまる形で自分が立て替えたのであれば、民法608条1項により、貸主の負担に属する必要費は直ちに償還を請求できます。領収書は必ず保管してください。
「借主の責め」になるのはどんなとき
606条1項ただし書きの「借主の責めに帰すべき事由」に当たるのは、たとえば次のような場合です。
- フィルター清掃をまったくせず放置して故障させた(善管注意義務違反)
- 物をぶつけて本体や配管を壊した
- 自分で分解しようとして壊した
一方、経年劣化・自然故障は借主の責めではありません。10年以上使われた設備が寿命で止まったのなら、それは貸主が負担する話です。「使い方が悪かったのでは」と言われても、経年か過失かは別問題だと切り分けてください。

ポイント③ 直るまでの家賃は減額されうる
ここが一番知られていないポイントです。修理を待っている間の家賃は、満額払わなければならないわけではありません。
民法611条1項は、賃借物の一部が使用・収益できなくなり、それが借主の責めに帰することができない事由によるときは、賃料は使用・収益できなくなった部分の割合に応じて減額されると定めています。
注目したいのは「減額される」という書き方です。2020年4月施行の改正前は「減額を請求することができる」でしたが、改正後は条件を満たせば当然に減額されるという書き方に変わりました。お願いして値引きしてもらうのではなく、法律上そうなるという建て付けです。
とはいえ「割合に応じて」が具体的にいくらなのかは条文には書いてありません。そこで実務の目安として使われているのが、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会(日管協)が公表している「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」です。2024年10月4日改定の最新版では、エアコンが作動しない場合の減額割合は月額賃料の10%、免責日数は3日とされています(季節・地域・間取り・設置台数に応じて調整するとの注記付き)。
計算は日割りです。家賃9万円の部屋でエアコンが13日間使えなかったとすると、
9万円 × 10% ×(13日 - 免責3日)÷ 30日 = 3,000円
金額としては大きくありません。ただ大事なのは、このガイドラインには法的拘束力がなく、あくまで目安だと協会自身が明記している点です。真夏に2週間エアコンなしという状況は、10%で収まる話ではないという主張の余地は残されています。日管協は、電気が使えない場合は40%、水が使えない場合は30%といった具合に、生活への影響度で割合を分けています。
また、民法611条2項は、残った部分だけでは借りた目的を達せられないときは、借主は契約を解除できると定めています。ここまで来るケースは稀ですが、逃げ道があることは知っておいて損はありません。
なお、エアコンの効きが悪いまま使い続けると、電気代が目に見えて上がります。私も引越しのタイミングで電気とガスのプランを見直して、年間で1万円以上変わった経験があります。切り替えは無料で、比較自体は5分ほどで終わります。修理を待っている間にできることとして、光熱費側も一度見ておく価値があります。
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まとめ
賃貸のエアコンが壊れたときに損をしないための3つのポイントを、もう一度整理します。
- ① 設備か残置物かを書類で確認する … 契約書・付帯設備表・重要事項説明書を見る。設備なら民法606条1項で貸主に修繕義務。残置物や「借主負担」の特約があると結論が変わる
- ② 原因を切り分けて、先に通知する … 民法615条で通知は義務。自分で修理できるのは607条の2の2つの場合だけ。経年劣化は借主の責めではない
- ③ 直るまでの家賃は減額されうる … 民法611条1項で「減額される」。日管協ガイドライン(2024年10月4日改定)はエアコン不作動で月額賃料の10%・免責3日が目安
この3つの中で、いちばん効くのは②の「先に通知する」です。法律上の権利はきちんと用意されているのに、順番を間違えるだけで使えなくなってしまう。逆に、記録の残る形で連絡を入れた瞬間から、修繕義務も家賃減額も自分の味方になります。
暑い日にエアコンが止まると、つい感情が先に立ちます。それでもまず契約書、次に連絡、それから修理。この順番だけ覚えて帰ってください。
【参考】民法606条・607条の2・608条・611条・615条(e-Gov法令検索)/公益財団法人日本賃貸住宅管理協会「貸室・設備等の不具合による賃料減額ガイドライン」(2024年10月4日)/公益財団法人不動産流通推進センター 相談事例「残置物エアコンの故障に対する修理義務の所在」
