引越しの日が近づくと、新しい部屋のことで頭がいっぱいになりがちです。でも、そのすぐ手前に、意外と大事なイベントがあります。今の部屋の「退去立ち会い」です。
管理会社の担当者と一緒に部屋を見て回り、最後に「では、こちらにサインを」と書類を出される。急いでいると、よく読まずにサインしてしまいそうになります。ところが、その1枚のサインが、あとで敷金がいくら戻るかを左右することがあります。
この記事では、民法の条文と国土交通省のガイドラインを確かめたうえで、退去立ち会いの前と当日に確認したいことをチェック表にまとめました。印刷したり、スマホで開いたまま立ち会いに臨んだりして使ってください。
まずはこれだけ|退去立ち会いチェック表
先に全体をお見せします。くわしい理由は、このあと1項目ずつ説明します。
【立ち会いの前】
□ 入居したときの写真・「入居時チェックリスト」を探しておいた
□ 契約書の「原状回復」と「特約」(クリーニング代など)の欄を読んだ
□ 電気・ガス・水道の解約(または引越し先への切り替え)を申し込んだ
【立ち会いの当日】
□ キズや汚れを1か所ずつ「いつ・なぜできたか」確認した
□ 自分のスマホでも同じ場所の写真を撮った
□ 壁紙などは「何年住んだか(経過年数)」を考えて計算されているか聞いた
□ 金額が書かれた書類に、その場で納得しないままサインしなかった
【立ち会いの後】
□ 精算書(何にいくらかかるかの明細)を書面でもらった
□ 納得できない点は、契約書とガイドラインを見比べてから連絡した

そもそも、退去のとき借主は何を直すの?
民法621条は、借主が部屋を返すときの「原状回復」について、こう決めています。
- 借りたあとにできた損傷は、借主が元に戻す
- ただし、ふつうに住んでいてできた損耗と年月がたって古くなった分(経年変化)は、その損傷に含まない
- 借主のせいではない損傷も、借主は直さなくてよい
つまり「原状回復」は「入居した日の新品の状態に戻すこと」ではありません。家具を置いたへこみや、日焼けで色が変わった壁紙などは、もともと家賃の中で大家さんが負担するものと考えられています。
そして敷金は、民法622条の2で「部屋を返したあと、未払いの家賃などを差し引いた残りを返す」お金と決められています。退去立ち会いは、この「差し引く金額」を決めるための大事な場なのです。

チェック表の5つのポイントをくわしく
ポイント①|入居時の記録と契約書を、立ち会いの前に用意する
立ち会いでいちばん揉めやすいのが、「このキズは入居したときからありました」という話です。言った・言わないになると、記録のない借主が不利になりがちです。
入居のときに撮った写真や、管理会社に出した「入居時チェックリスト」が残っていれば、必ず持っていきましょう。国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」でも、入居時と退去時に部屋の状態を確認し合うことがトラブル防止の基本として示されています。
あわせて、契約書の「原状回復」と「特約」の欄を読んでおきます。「退去時のハウスクリーニング代は借主負担」のような特約があるかどうかで、請求の見え方が変わるからです。
引越しの準備では、電気・ガス・水道の手続きも忘れがちです。退去日までに止めるか、引越し先へ切り替える申し込みをしておきましょう。電気は引越しのタイミングで契約先を見直すと、毎月の固定費を下げられることもあります。比較は無料なので、国内最大級の電力比較サイト【エネチェンジ】はこちらから
一度のぞいてみるのも手です。
ポイント②|キズ1か所ごとに「いつ・なぜ」を確認する
当日は、担当者が指摘したキズや汚れを、1か所ずつ一緒に見ていきます。そのとき頭に置いておきたいのが、次の3つの区分です。
- 経年変化(例:日光による壁紙やフローリングの色あせ)→ 借主は負担しない
- 通常の損耗(例:家具を置いた床のへこみ、冷蔵庫の後ろの壁の黒ずみ)→ 借主は負担しない
- 借主の不注意などによる損傷(例:物を落としてできた穴、タバコのヤニ、掃除をしなかったことによるカビ)→ 借主が負担する
「これはどの区分ですか?」と聞くのは、失礼なことではありません。担当者が指摘した場所は、自分のスマホでも写真を撮っておくと、あとで話し合うときの材料になります。
ポイント③|「何年住んだか」が計算に入っているか聞く
借主の不注意で壁紙を傷つけてしまった場合でも、張り替え代を全額払うとは限りません。
国土交通省のガイドラインでは、壁紙(クロス)は6年で価値が1円になるような考え方で、借主の負担割合を計算するとされています。たとえば長く住んでいた部屋なら、壁紙の価値はすでにかなり下がっているので、借主の負担もそれに合わせて小さくなる、という考え方です。
見積もりに「クロス張り替え 一式」とだけ書いてあったら、「経過年数は考慮されていますか?」と一言たずねてみてください。
ポイント④|金額の入った書類に、その場でサインしない
立ち会いの最後に出される書類には、大きく分けて2種類あります。
- 「今日、部屋の状態を一緒に確認しました」という確認書
- 「この修繕費を負担することに同意します」という費用の承諾書
前者なら大きな問題になりにくいのですが、後者はあとから「同意した」と扱われるおそれがあります。金額に納得できないときは、「明細を見てから返事します」と伝え、その場ではサインしないのが安全です。書類のタイトルと文言を、落ち着いて読んでから判断しましょう。
なお、ふつうの使い方でできた損耗まで借主に負担させる特約について、最高裁(平成17年12月16日判決)は、借主が負担する範囲が契約書に具体的に書かれているか、口頭で説明されて借主がはっきり認識し合意したといえることなどが必要だと判断しています。退去の日に初めて聞かされた「特約」は、そもそも合意があったのかを確認する価値があります。
ポイント⑤|精算書は書面でもらい、納得できなければ相談する
立ち会いのあとは、何に・いくらかかるのかがわかる精算書を書面(メールやPDFでも可)でもらいましょう。ガイドラインにも、費用の精算書の様式が用意されています。
明細を見ても納得できないときは、契約書の特約とガイドラインを見比べたうえで、理由を書いて管理会社に連絡します。それでも話がまとまらなければ、消費者ホットライン「188」で近くの消費生活センターに相談できます。

まとめ|サインの前に、チェック表をもう一度
退去立ち会いで大事なのは、次の5つです。
- 入居時の記録と契約書を、前もって用意する
- キズ1か所ごとに「いつ・なぜできたか」を確認する
- 壁紙などは「何年住んだか」が計算に入っているか聞く
- 金額の入った書類に、その場で納得しないままサインしない
- 精算書は書面でもらい、納得できなければ相談する
原状回復のルールは、宅建試験でも民法の分野で出題される大事なテーマです。「ふつうに住んでできた傷みは、借主が直さなくていい」。この一文を覚えておくだけで、立ち会いの日に落ち着いて話ができるはずです。
次の部屋を探している方は、入居のときに部屋の写真をたくさん撮っておくことも忘れずに。それが、何年か先の退去の日のあなたを守ってくれます。
※本記事にはアフィリエイト広告を含みます。※記事の内容は一般的な情報です。個別のケースは契約書の内容によって変わります。
