「今の部屋、来月出ようと思ってるんです」——引越しの相談を受けたとき、私が真っ先に聞くのがこれです。「解約の連絡、もう出しました?」
ここでモタつくと、新しい部屋の家賃と、出ていく部屋の家賃を同じ月に二重で払うことになります。家賃7万円なら、たった1本の連絡が遅れただけで7万円が消える。しかもこれは、値切りようのないお金です。
宅建士として契約書を読んできて思うのは、この失敗は「知らなかった」だけで起きているということ。今日は、賃貸の解約予告について、家賃を二重に払わないための3つのポイントを整理します。
そもそも「解約予告」って何のこと?
解約予告とは、「この部屋を出ます」と大家さん(または管理会社)に前もって伝えることです。契約書には「解約予告期間」として、退去の何日前までに伝えるかが書かれています。
ポイントは、解約が成立するのは「あなたが部屋を出た日」ではなく「予告期間が満了した日」だということ。ここがズレていると、鍵を返したあとの家賃まで請求されます。
実際、私のところに来る引越しトラブルの相談で一番多いのが、この「出たのに家賃を取られた」というパターンです。契約書を見せてもらうと、たいてい大家さん側が正しい。読まずにサインしていた、というだけの話なのです。

ポイント①:予告期間は「法律」より先に「契約書」を見る
ネットで調べると「解約は3か月前」「いや1か月前」と情報がバラバラで混乱すると思います。理由はシンプルで、法律のルールと契約書のルールが両方あるからです。
法律のほうを整理すると、こうなります。
- 期間の定めがない契約:借主から解約を申し入れると、申入れの日から3か月で終了します(民法617条1項2号)
- 期間の定めがある契約(一般的な2年契約など):契約書に「借主は途中で解約できる」という取り決め(解約権の留保)があれば、それに従います(民法618条)
- 大家さんから解約を申し入れる場合:申入れの日から6か月、しかも正当な事由が必要です(借地借家法27条・28条)
つまり、世の中のほとんどの2年契約の賃貸では、予告期間を決めているのは法律ではなく、あなたが署名した契約書の特約です。居住用は「1か月前」が多いものの、ファミリー向けや事業用では「2か月前」「3か月前」も普通にあります。
やることは1つ。契約書を引っぱり出して「解約」または「中途解約」の見出しを探し、何か月前と書いてあるか声に出して読む。これだけです。物件を探し始める前にやってください。逆算の起点になります。

ポイント②:起算日と日割りの2つで、1か月分ズレる
「1か月前に言えばいいんでしょ」と思った方、ここが本当の落とし穴です。同じ「1か月前」でも、契約書の書き方で終了日が1か月変わります。
見るべきは次の2つ。
- 起算日:「通知が届いた日から1か月」なのか、「通知した月の翌月1日から1か月」なのか。後者だと、9月2日に連絡しても終了は10月31日です
- 日割りの可否:「最終月は日割り精算する」のか、「最終月は日割りせず1か月分」なのか。後者なら、月の途中で出ても満額です
この2つが最悪の組み合わせだと、9月上旬に連絡したのに10月分の家賃を満額払う、という結果になります。新居の入居日を旧居の終了日より前に設定すると、その重なった分がまるごと二重家賃です。
そして地味に効くのが、引越しに伴う電気・ガスの契約。旧居を止めるタイミングを間違えると、こちらも二重に基本料金を払うことになります。せっかく切り替えるなら、そのタイミングで料金プラン自体を見直すのが一番ラクです。私も引越しのときに比較して、月々の固定費が下がりました。
無料で使えて5分ほどで比較できるので、退去日が決まったら一緒に済ませてしまうのがおすすめです。

ポイント③:連絡は「書面」で。定期借家は別ルール
電話で「来月出ます」と伝えて安心してしまう人が本当に多いのですが、これが一番危ない。「聞いていない」と言われたら、証拠が何も残りません。
正解は、管理会社所定の解約通知書を使うことです。契約時の書類一式に入っていることがほとんどで、最近はWebフォームやメールで受け付ける会社も増えました。送った日付と控えが残る方法を選ぶ——これだけで揉めごとの大半は防げます。送ったあとは、受付完了の返信が来ているかも必ず確認してください。
もうひとつ、見落とされがちなのが定期借家契約(定期建物賃貸借)です。更新のない契約で、家賃が相場より安いことがあります。この契約は、原則として途中で解約できません。契約期間の家賃を最後まで払う義務が残るのが原則です。
ただし例外があります。居住用で床面積200平方メートル未満の建物なら、転勤・療養・親族の介護などやむを得ない事情で住み続けるのが難しくなったとき、借主から解約を申し入れることができ、申入れの日から1か月で契約が終了します(借地借家法38条7項)。そして、これに反する借主に不利な特約は無効です(同条8項)。
自分の契約が普通借家か定期借家かは、契約書の表題と「更新がない」という記載で分かります。分からなければ、契約前に「これは定期借家ですか?」と聞いてください。宅建士は重要事項説明でこれを説明する義務があるので、遠慮はいりません。
実際の段取り:退去日から逆算する
まとめると、動く順番はこうなります。
- 契約書を出す——予告期間・起算日・日割りの有無を確認する
- 解約通知を出す——退去希望日から逆算し、書面かフォームで。受付の返信を確認する
- 終了日が確定してから新居を決める——入居日を終了日の直前に合わせれば、重なりは最小になる
- ライフラインの停止・開始を手配する——電気・ガス・水道・ネット
ここで大事なのは3の順番です。先に新居を押さえてしまうと、旧居の終了日を新居に合わせられず、差額を丸かぶりします。解約通知が先、物件決定が後。この順番を守るだけで、数万円が財布に残ります。
お部屋探しそのものは、条件と予算が固まってから動けば十分間に合います。
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まとめ
賃貸の解約予告で家賃を二重に払わないためのポイントは、この3つです。
- ①予告期間は契約書の特約が優先——1か月前とは限らない。まず契約書を読む
- ②起算日と日割りで1か月ズレる——「翌月1日起算」「日割りなし」は要注意
- ③連絡は必ず書面で——定期借家は原則中途解約不可。例外は借地借家法38条7項
引越しは、部屋を選ぶところから始まると思われがちです。でも実際にお金が動き出すのは、今の部屋に「出ます」と伝えた瞬間から。ここを制すれば、引越し全体の予算がぐっと読みやすくなります。
契約書、今日のうちに探しておきませんか。10分の確認が、数万円を守ります。
