宅建に合格して「いよいよ自分で不動産会社を始めよう」と動き出したとき、いちばん最初にぶつかる分かれ道があります。それが「個人事業主で開業するか、会社(法人)を作ってから開業するか」という問題です。
結論から言うと、数年以内に法人化するつもりがあるなら、最初から法人で免許を取ったほうが得です。理由はシンプルで、宅建業の免許は「その人」に出るものなので、個人で取った免許を、あとから作った会社に引き継ぐことができないからです。
「とりあえず個人で始めて、軌道に乗ったら会社にしよう」——この一見かしこそうな進め方が、実は数十万円の出費と、1〜2か月の営業できない期間を生むことがあります。この記事では、宅建士の私が、あとで「取り直し」にならないための判断ポイントを3つに絞ってやさしく解説します。
そもそも宅建業の免許は「個人」と「法人」のどちらでも取れる
大前提として、宅建業の免許は個人事業主でも、会社(法人)でも取ることができます。宅建業法では、事務所が1つの都道府県だけなら知事免許、2つ以上の都道府県にまたがるなら国土交通大臣免許、と定められているだけで(宅建業法3条1項)、「法人でなければダメ」という決まりはありません。
専任の宅地建物取引士についても同じです。宅建業者は事務所ごとに専任の宅建士を置く必要がありますが(宅建業法31条の3第1項)、法人なら宅建士である役員が、個人事業なら事業主本人が、その事務所の専任の宅建士になれます。つまり「ひとり社長」でも「ひとり個人事業主」でも、宅建に合格したあなた自身が専任の宅建士を兼ねられるわけです。
では何が違うのか。分かれ目は「あとで乗り換えられるかどうか」です。ここから3つのポイントを見ていきましょう。

ポイント① 免許は「人」につく。法人化しても引き継げない
いちばん大事なのがこれです。宅建業の免許は、あなた個人に対して出たものです。あとから作った会社は、法律上まったくの別人として扱われます。
そのため、個人事業主として免許を取ったあとに法人成り(会社設立)をすると、次の手続きが必要になります。
- 個人としての宅建業は「廃業」:廃業した日から30日以内に、免許を受けた知事(または大臣)へ廃業の届出をします(宅建業法11条1項5号)。この届出をすると、個人の免許はその時点で効力を失います(同条2項)。
- 法人として「新規」で免許を申請:会社を作り、あらためて一から免許申請をやり直します。個人時代の実績も、免許番号も、引き継げません。
ここで地味に効いてくるのが免許番号のカッコの中の数字です。免許の有効期間は5年で、更新のたびにこの数字が増えていきます(宅建業法3条2項・3項)。「◯◯県知事(3)第△△△△号」と書かれていれば、10年以上続いている会社だとひと目でわかる仕組みです。
ところが法人化で免許を取り直すと、この数字は(1)からのスタートに戻ります。何年やってきても、対外的には「できたばかりの会社」に見えるということです。金融機関や大家さんから信用を見られる場面で、地味に効いてくる部分です。

ポイント② 保証協会に納めたお金も、一度戻して納め直しになる
2つ目はお金の話です。宅建業を始めるには、営業保証金を供託するか、保証協会に入るかを選びます。
- 営業保証金を自分で供託する場合:主たる事務所につき1,000万円、その他の事務所は1か所につき500万円(宅建業法施行令2条の4)。
- 保証協会に加入する場合:弁済業務保証金分担金として、主たる事務所につき60万円、その他の事務所は1か所につき30万円(宅建業法64条の9第1項、同施行令7条)。
ほとんどの方は、負担の軽い保証協会への加入(主たる事務所で60万円)を選びます。ただし実際には、この分担金のほかに入会金や年会費などがかかるため、初期費用としては数十万円から100万円台を見ておく必要があります(金額は協会や地域によって異なります)。
問題は、個人から法人へ切り替えるときです。免許が別人格のものになる以上、個人で加入していた保証協会も一度やめて、法人としてあらためて加入し直すことになります。分担金は廃業後に返ってきますが、入会金などの戻ってこない費用は、もう一度かかると考えておくのが安全です。
さらに、返還までには一定の期間がかかります。「60万円が戻る前に、法人分の60万円を先に用意しなければならない」——この立て替えが、開業したての資金繰りにはけっこう重くのしかかります。

ポイント③ 免許の「空白期間」に営業したら無免許になる
3つ目が、いちばん見落とされやすく、いちばん危ないところです。
宅建業法では、免許を受けていない者は宅建業を営んではならず、宅建業を営む旨の広告をすることもできないと定められています(宅建業法12条)。そして個人の免許は、廃業の届出をした時点で失効します。
ここで起きるのが「免許の空白期間」です。
- 会社の設立登記をする
- 法人として免許を申請する
- 審査を待つ(おおむね1〜2か月程度かかるのが一般的です)
- 免許が下りたら、保証協会に加入して手続きを済ませる
この間、法人はまだ免許を持っていません。つまり法人名義で仲介や売買の契約をまとめることも、法人名で物件広告を出すこともできないのです。「会社を作ったから、もう会社の名前で動いていい」と考えてしまうと、無免許営業に踏み込んでしまいます。
無免許で宅建業を営んだ場合の罰則は3年以下の拘禁刑(旧・懲役)または300万円以下の罰金、あるいはその両方と、非常に重いものです。「知らなかった」では済みません。
実務では、個人の廃業届と法人の免許取得のタイミングを丁寧につないでいくことになりますが、それでも数週間から数か月、思うように動けない時期が生まれます。事業が回り始めたあとにこの期間が来ると、正直かなり痛いです。
では、結局どちらを選べばいいのか
ここまでを踏まえた、私なりの判断のものさしをお伝えします。
【法人で始めたほうがいい人】
- 数年以内に法人化するイメージが、すでにある
- 売買仲介など、1件あたりの金額が大きい取引を狙っている
- 金融機関からの借入や、法人相手の取引を考えている
- 従業員を雇う予定がある
【個人で始めてもいい人】
- まずは副業的に、賃貸仲介などから小さく試したい
- 会社設立の費用(登録免許税などでおよそ10万〜25万円。株式会社か合同会社かで変わります)を、今は使いたくない
- この先ずっと、ひとりで続けていく想定でいる
ざっくり言えば、「いつか会社にしたい」と少しでも思っているなら、最初から法人。「ひとりで小さく、長く」と決めているなら個人——これが、取り直しのムダを避けるいちばんシンプルな考え方です。
私自身、開業の準備を進める中でいちばん時間を使ったのが、この「どちらで始めるか」の判断でした。免許の申請費用や保証協会のお金は決して小さくありませんから、一度で決めるという視点を持っておくだけで、数十万円が変わってきます。
個人で始めると決めたら、開業届と青色申告はセットで
個人事業主として始めると決めたなら、忘れずにやっておきたいのが開業届と、青色申告承認申請書の提出です。とくに青色申告は、最大65万円の控除が受けられる大きな制度で、原則として開業から2か月以内に申請が必要です。
私も最初はこの書類でとまどいました。今は無料で作れるサービスがあるので、早めに触っておく価値があります。
開業の第一歩は弥生のかんたん開業届(無料)で。画面に沿って入力するだけで、開業届と青色申告承認申請書が作れます。
※本記事にはアフィリエイト広告を含みます。記載の内容は執筆時点(2026年8月)の情報です。保証協会の入会金や審査期間は地域・団体によって異なります。個別の判断は、事務所所在地の都道府県の宅建業免許担当窓口や専門家に必ずご確認ください。
まとめ|「あとで乗り換える」がいちばん高くつく
宅建業を個人で始めるか法人で始めるか、押さえておきたい3つのポイントをおさらいします。
- 免許は「人」につく(個人で取った免許は法人に引き継げない。廃業届を出して、法人で新規申請。免許番号のカッコの数字も(1)に戻る)
- 保証協会のお金も納め直しになる(分担金は主たる事務所60万円。返還を待たずに次を用意する立て替えが発生し、入会金は戻らない)
- 免許の空白期間に営業したら無免許(法人の免許が下りるまで1〜2か月程度。その間は法人名で契約も広告もできない)
「とりあえず個人で、あとで法人へ」は、いちばん高くつく進め方になりがちです。逆に言えば、開業前のいま、5年後の姿を一度だけ真剣に想像しておけば、それだけでムダな数十万円を防げます。
どちらを選んでも、宅建に合格したあなたが専任の宅建士として自分の事務所を持てることに変わりはありません。大事なのは、一度で決めること。それだけです。
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